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計算し尽くされた建築デザインや装飾も、ゲストの気持ちを高揚させ、スタッフとゲストが一体となって別世界を形作っているのだ
「ホテル」という名前の起源と変遷ここでちょっと、ホテルの起こりについて触れておこう
人の移動があるところ、どこにでも宿泊施設の必要がある
紀元前のシルクロードにも、馬小屋付きの宿泊所があった
今でいえばちょうど「駐車場完備」といったところ
だから、宿泊所としてのホテルの起源は人類の移動とともにあった、といっていいだろう
しかし、今のホテルのルーツとなるとその原型の起源はもう少し後になる
ホテルという呼称の起源については諸説がある
一一世紀頃、ヨーロッパを巡礼する旅人が、スイスの峠を越えるとき、疲れはてて修道院の扉を叩き、修道院が温かく旅人を受け入れたことからホスピスと呼ばれる旅篭が出現した、という説が有力だ
当時のスイスはヨーロッパの十字路ともいわれ、古代ローマの時代から、交通の要所となってきた
険しい峠道をたどる人々にとって、ホスピスの存在は生命線ともいえただろう
「ホスピス」という言葉自体はラテン語で、もともとの意味は「旅人」「客」、あるいは客をもてなす「主人」を意味したという
それがフランス語で「ホステル(hostel)」に変化、最終的にはsがとれて英語の「hotel」に落ち着いたというわけだ
とはいっても、ホスピスから派生した「ホスピタリティ」という、「もてなし」を意味する言葉は健在で、すべてのホテル関係者のサービス精神の基礎になっているのは周知のとおり
このホスピタリティの精神、実は現在でもホテルのグレードを計る際の大きなポイントになっている
日本人はもてなし上手もてなされ下手豪華なハード(器)と洗練されたソフト(サービス)、それがホテルの二大要素、と書いてきたが、実はホテルのグレードを決めるもうひとつの大きな要素がある
それは「ゲスト」である
ロビーに足を踏み入れると、ゲストがかもし出す雰囲気でホテルのムードが大きく左右されていることに気付くだろう
どんなに豪華なロビーでも、ジーンズにフリースの学生がたむろしていたり、いかにも団体という傍若無人な一団が騒いでいたりすれば、ホテルの雰囲気は台無しだ
ホテルによっては、団体客とVIPのロビーを別々に設けているところがある、というのもうなずける話
団体が悪いというのではないが、人間、集団になるとどうしてもマナーが悪くなる
個人客には団体客の振舞いは評判が悪いようだ
いずれにせよ、ロビーの落ち着きは、八割はゲストが決める
しかもホテル側は原則的にゲストを選べない
自然とレベルの高いゲストが集うホテル、それが見えない力で一流ホテルかどうかのグレードを決定付けているのかもしれない
一般に、日本人はホテルのゲストとしての振舞いが苦手のように見える
とくに、どこまでサービスを求めていいのか悪いのか、どこまでの行動が許されてどこからがやり過ぎなのか、線引きが難しいという声を耳にする
その理由は、第一にホテルというシステムが日本人にはまだ馴染みが浅いからだろう
これまで、日本の宿といったら旅館スタイルが中心だった
旅館のもてなしというのはスタッフのノウハウがきっちり決まっている
チェックインの後はたいていお風呂のサービスで、続いて夕食だが、メニューはすべて旅館側か決定している
客に好き嫌いがあった場合の対処法としては、さまざまな料理をテーブル一杯に並べ立てることでカバーしておいた
食べきれないほどの料理は、食の豊かさの演出であると同時に、そんな客の好みにも合うメニューが必ず入っているようにとの配慮があったに違いない
さらに食事後には布団サービスがあった
仲居さんが部屋にやってきて、布団を延べていくのである
ゲストが食事を別の場所でとる場合には、食事をしているあいだに部屋に布団を敷いておく、というのが定番だ
プライバシーにはまったく配慮のないサービスだが、日本人はそれだけプライバシーというものに対して重きを置いてこなかったことの証拠でもある
朝食も然りで、旅館側か決めた朝食時間までに起きて、決められた食事をとるのが基本
つまり日本の旅館のサービスは、すべてサービスを提供する側か主導権を持つのが特徴だ
サービスはパッケージになっており、個人的な好みで細かく注文をつけたり、サービスの変更を要求する客はマナーが悪いとされてきた
非日常の、どちらかといえば物見遊山のひとつとして利用するのが旅館であり、そこでは回転寿司の皿に乗ったネタよろしくぐるりとベルトコンベヤーに乗って一周、プロの作った台本どおり、サービスを受けて楽しむのがルールだったのだ
対して西洋文化が生んだホテルは、発想がまったく異なる
現在のシティホテルの原型となったのは、ヨーロッパ諸国が植民地に建てた宿泊施設だったといわれる
未開のジャングルや野生動物がうろつく草原に、ヨーロッパからやってきた資本家は、どうにかして自分の屋敷並みの居心地のいい建物を建てたいと願った
ふんだんに用意された水や清潔な食事、教育された召使い、趣味のいい家具、それらは彼らの日常だった
決して物見遊山の発想ではなく、むしろ必要不可欠な施設と位置付けていたのだろう
そういう発想が現在でもホテルのサービスに受け継がれている
だから彼らはサービスに注文をつける
食べたい料理、眠りたい部屋、毎日のエクササイズを続けられる設備、わがままをいっていい範囲は頭の中に入っているようだ
もちろん彼らにとって、安全はただではない、という理論も、うなずける道理だ
安全な場所を確保することに代価を支払うという行為に対しては抵抗がないのだ
そういう感覚は、世界一安全な国・日本で暮らしてきた日本人にはまだピンと来ない
もともと他人を思いやる細やかな気遣いを持ち、親切な国民として知られる日本人にとって、客へのサービスは得意分野ともいえる仕事だ
しかしその反面、自分の意思や望みを相手に訴えて自己主張する習慣のない我々にとって、ホテルでスマートにサービスを受ける、という行為はまだまだ苦手のようだ
ところで、一流のホテルとはそもそも、どういうホテルを指すのだろうか
海外ではかなり分類がはっきりしている
星の数を一個から五個まで付けて分類する方法は、一番有名だ
星の数イコール料金ではないが、ほぼ比例しているので、旅行者はその日の予算や気分、TPOでホテルをセレクトすることができる
ホテル側も割りきっていて、客がプラスアルファのサービスを要求しても、「うちはニツ星なのでそこまではできかねる」とはっきりいう
でもニツ星ならニツ星なりのプライドを持って営業している
アメリカの場合は、六段階でグレードを表示する場合もある
日本の民宿価格の「バジェット」、ビジネスホテルクラスの「エコノミー」、高級ビジネスホテルは「ロウアーミQドル」、HやSといった有名チェーンは「アッパーミドル」、高級シティホテルクラスの「ラグジュアリー」、超高級ホテルが「スーパーラグジュアリー」だ
日本でも、専門家が選ぶベストホテルや、専門誌による人気ホテルランキングなどがあるにはあるが、いまひとつ一般利用者にはそのランク付けが普及していない

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